森閑/岡部淳太郎
みずからの
罪に気づかない
それでいながら どこか
奇妙なうしろめたさを思って
隠れてしまう
逃げてしまう
みんなが笑い
さざめき 声を
かけあう中で
ひとり帰る
橋をわたって
いつもの森の中へ
そこでなら
思う存分しずかに
息を立てずに
眠ることができる
木々の葉ずれの
音の向こうから
潮騒や街のざわめきが
聞こえてくる
ここに住む鳥でも
虫でもないものの
声を思って それを
ひそかに追いながら
森閑の深さに
寝返りをうつ
ひとりきりの
うしろめたさはつづく
みずからの
罪を解き明かすために
森はますます昏く
ますますいとしくなる
(二〇一一年五月)
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