ベランダ飛ぶ/山上鉄柵
「あの子はきっと、砂を売って
眠たい猫と暮らしているんだ。眠たい猫は今日も
近所のガレージで眠っていたよ。
それで今日も電信棒はきっと、幾重にも
留められていたんだ。
ほら、向かいの窓
麻色のカーテンが揺れている。
今日はとても、風が強いね。」
そしてトポスより運んでくるものは
鳥たちはずっと前から決まったグラフを描き
わからないなりに白目剥いた僕が
いつかの毛糸の塊を
飲みこんでたみたいお腹いっぱい
冷たい
皮膚感覚に繋がれる
曇天、湿度八十七パーセントはドライ
ごたごたと
絡まり捩れた模様で
固まった
洗濯物を干す
うんざりしてその執拗な抱擁を裂き
訣別に世を突く
ああ、冬の物干しは、ねえ
(白べた塗りでコンクリートの
廊下は地表を貫きつるんと進む
白い五面の景色で境界の無さに
平面は溢れ返り埋め尽くす)
とはいえ無様にぶら下がる
タオルからは季節の真中がハロー
においがした
どこかの家の夕食は例のごとくカレー
指先いっぱい伸ばしたら
ほんの少し震えた
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