うん /遙洋
殴ろうとしてあげた右腕をふりおろそうとすると
空気の抵抗にあたるさきからさらさらと砂のようになってかすんでしまった
なくなった利き手に呆然としながら、彼女をみると
殴ろうとしていた先の左ほおのあたりが、かすんで判然としない
彼女はほほえんでいる
痛くない?
という問いが、彼女にとどくまえにさらさらと砂のようにかすんでしまった
いいえ、とこたえるはずの彼女は、言葉を知らない人のようにほほえんでいる
彼女はほほえんでいる
そうか
なかったことだこれは
僕は殴らなかったし、彼女は殴られなかったから
僕は問わなくてもよいし、彼女も返答するための言葉を必要としない
そうか、
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