とんかつソース/コーリャ
 
ない早業だ
だからぼくはぼくを見ることができない
たぶんあなたもあなたを見ることができない
ぼくたちは空間であるべきだった
音楽的であるべきだった
あとちょっと関係ないけど
夜空には口笛を吹いてはいけない
マントを翻し
ひときわ深い影を落としながら
ぼくはおびき寄せられていくから

バスルームには粉々の濡れそぼったガラス
まるで雨の風景を破片に砕いたみたいに
それは痛感をともなう
複雑な虹のかけら

金魚鉢の水を取り替えるつもりだった
あなたの手から
すり抜けていった
から
あなたは叫んだ
靴下が濡れた
金魚はゆっくり乾いて
死んだ

あなたは俯いた
長い黒髪があなたの顔を隠すシェードになった
笑いをこらえるように
あるいは繊細な楽器のように
肩が震えていた

ぼくは
死骸を手のひらに載せて
フライにして食べよう
と提案する

あなたはやっと顔をあげて
とんかつソースしかないけれど
と笑った

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