クロール/ホロウ・シカエルボク
高熱で溶けたアスファルトをのた打って泳ぐ一匹の亡霊
髪はなく眼球は薄く霞みおそらくはなにも見えてはいない
肉はなく皮は骨格に張り付き伸ばす腕に力はなく
声もなく心もなくだけどそこを泳ぐ理由だけは確かにあるみたいで
北の方に向かってひたすらクロールし続けている
車が道を跳ね上げ漆黒の轍が亡霊の進路を判りにくくして
やがてヘッドライトの中でそれは消えた
俺は首と腕に枷をされた罪人のように
窓枠に身体をもたせてそのさまをずっと見ていた
本当はおそらくアスファルトは溶けてはいないしあいつはそこを泳いでもいない
それはただそこに落とされた消化されな
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