魚眼プール/魚屋スイソ
扇風機の駆動音と、蝉の声に紛れて、水の音がしている。彼はブリキのコップの中で魚眼を飼っていた。寝返りをうって、バタイユの文庫を相手に呪詛のような言葉を呟いている。彼女は何もきこえないふりをしながら、脱ぎ捨てられた制服と、イアフォンを耳につっこんで背を向けた彼の裸を傍目に、理科の教科書をめくっていた。乾燥した精液で貼りついたページを剥がす度に、少し嗜虐的な、プールサイドに寝そべった校舎の影が夏に焼かれているイメージが、爪を立てて、皮膚の裏側をなぞる。彼女はプールの授業がきらいだった。カルキのにおいと、クラスメイトの濡れた肌と、何よりそれらと一緒に同じ水へ潜るという行為に、言いようのない嫌悪感をいだ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)