魚類、落つ/雨伽シオン
名前すら知らない男の下卑た声が、気持ちいいかとしきりに尋ねるけれど、私は引き千切られていく自分をかき集めるのに必死だった。手がもげて足がもげて、私はバラバラになって落ちていくのだ。上も下も真っ白で、自分がどこへ向かっているのか分からない。片栗粉を溶かした水中に潜るかのようにゆっくりと落ちていく。そういえば《鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる》という俳句が、国語の教科書に載っていたっけ。ちょうどその鮟鱇にそっくり。宙に吊されてぶつ切りにされているのだ。深海魚が水中どころか地上すら離れて、人間の目に晒されながら、身ぐるみを剥がされて死んでゆく。いわば死のストリップショー。ああ、私、鮟鱇に生まれなくてよかっ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)