名前のない鳥/花形新次
名前のない鳥が
薄曇りの空へ
飛んでいった
羽音をたてなかったのは、
よく通る声で鳴かなかったのは
そこにいることを
知られないため
太陽に向かわなかったのは
影を教えないため
知られなければ、
誰にも知られなければ
このまま
名前のない鳥でいられるから
名前を呼んでほしかったのは
遠い昔
まだ少しだけ
美しいところがあった
あのころ
「呼びとめられることはなかったよ」
今は
たった一人
空を飛びたい
そして風に溶けたい
そしてきれいに消えてしまいたい
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