ノット・アズ・センチメンタル・アズ・イット・ユゥズ・トゥービーなジャーニー/コーリャ
 
みつめるばかり
困った

電車はいつのまにか動きだしていた
2009年の6月と女はもういなかった
そのかわり氷付けの猿と
肌色の幽霊と
木とガイコツと景色の収集人が乗り合わせていて
ぼくはこの道連れと
どんな終点までいくんだろうかとおもっていたが
ひとりづつ下車し
さいごにのこったのは
最初にいなかったはずの女だった
すごく困った

ぼくはもう喋らなかった
太陽と月のそういう実験みたいに
ただ寝たり起きたりをくりかえした
ときどきは彼女のために歌をうたってみた
うまくうたえたり
まったくうたえなかったりした
それでもよかった
車窓から吹きこむ風のなかで
ぼくらは生きていた
それなりにメロディアスに
おたがいそっぽをむきながら

すごく上手に歌をうたえたことがあった
もうこれ以上なかった
どうだ?と彼女のほうをふりかえると
もういなかった
はは、
バイバイ

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