俺の幽霊/……とある蛙
初夏の明るい光の中
陽光に照らされた新緑の並木
聖橋から下る通りに
暗さは無い。
明るく振る舞う表情の裏
怠惰と絶望が無い交ぜになった
深く刻まれた皺を持つ老人の横顔
溌剌とした声の裏側に
嗄れた呪文にも似た後悔の独白
美しい夕暮れの聖橋にかかる
犬の遠吠え
中央線と総武線の交錯した
車両の騒音
秋葉原の深閑とした夜の悲鳴
ビルの谷間の闇に
立て付けの悪い夜の扉に凭れる
過去の俺の恋愛画像
俺は天国の夢を見る
それは暗い法廷の待合室だ
風が吹いている
密室に吹き込む冷たい山背
それは過ぎさった辛い嵐の名残
通風孔から吹き込む風に
鼠
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