かなしみ/木屋 亞万
 
器官
吸って吐いて吸って吐いて
生まれてから死ぬまで
やめることのできない呼吸
それは手ごたえのない生きる証
空気は腹へは入らない
どれだけ深く吸い込んでも
胸の中をぐるぐるまわる

かなしみがわたしの足をとめる
気づけばずっと
下を向いて歩いていた
空を見上げると
漠然とした水色が
とてもかなしげに
まるで存在していないように
無い口を開けて
無い瞳からぼろぼろと
涙をこぼす

雲ひとつないのに
雨が降る日は
かなしいのが
わたしだけではないのだと
おしえてくれる
貴重な日です

わたしもあのように
涙をぼたぼたと
こぼすことができたならば
かなしみをうまく吐き出せたならば
言葉にすがらずに済むのに

かなしみを捨てるつもりはない
ただもうすこしかなしみが
かるいほうが
あるくとき楽だし
もっととおくへ行けるような
気がして
きょうもかなしくあるく
あるく

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