季節はずれの海岸物語/はだいろ
の夏。
とうとう、ぼくにも彼女ができた。
あのころのぼくに、自慢をしたい気もするが、
きっとうらやましがったりは、しないことだろう。
ぼくは、
なんとか、結婚もせず、
評論家にもならず、
自殺もせず、
逮捕もされず、
それがよいもわるいもないけれど、
あのころの胸のもやもやや、
ゆくあてもないときめきを、
このドラマを見ながらまるで、
玉手箱を開けるように、
思い出してしまった。
こないだ、
江の電に乗って、
彼女と行った湘南は、すっかり曇っていた。
いくら耳をすませても、サザンもユーミンも聞こえてこない。
死んだつもりにならないと、人を愛したふりもできない。
こんどは、
晴れた日に、また行ってみたい。
季節はずれに、出かけてみたい。
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