球体の内部/……とある蛙
五月の空といいながら
空はどんより鈍色で
雲と空の境は淡く
地平線は黄砂に吹かれ
やはり視界の球体の内部
己の認識世界の端と端が
すべて曖昧な灰色グラデーション
その球体の中を
てくてくてくてく
操り人形の
斯く斯く
とした動きで歩み出し
吃音の言葉しか吐けないが
歩いても歩いても
境界のない球体の内部
果てしない認識世界の果ての果て
視界の先に見えるのは
藤棚のある小路の先に
亀の甲羅の浮き島と
蛙の目玉の浮き沈み
その先太鼓橋のはるか上空
世界一の塔が黄砂に霞み
藤の花の香りは
人人人の
人息で
香りはすべて遠くなり
自分の意識が薄くなり、
やはりというか
しかりというか
認識世界の球体は
実は自分の友人知人
すべての愛する人たちの
思いが薄く球体の膜を
覆って成り立つ
自分の心が映された
一つの大きな球体が
自分の視界
自分の人生
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