渚/草野春心
 


1.詩人

  一人の詩人は
  自らの詩をオルゴールに閉まった
  そして時々、宝石が
  散りばめられた蓋を開ける
  身分証明が必要なときや
  金に困ったとき



  一人の詩人は
  自らの詩を裸のまま海に返した
  ノートの一頁として
  読みあげる声として返した
  夕暮れになると、彼は浜辺に
  戻ってきて水平線を眺める



  一人の詩人は
  もう詩など書かなかった



2.夜

  夜
  流木と
  潮の香があり
  渚は
  ひとつの肉体であり



  蘇生と
  死滅を繰り返す
 
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