虫がふふんと鳴いた/シホ.N
奴ももう
もうろくしはじめているので
僕のことを
認められやしないのだ
奴もそろそろ
ろうそくの残りの火も気になるので
僕の顔さえ
まともに見てやしないのだ
奴らと僕らとのあいだには
オイディプス王たちほどの
浪漫もなにもないのだから
僕らとしても
悩める顔付きをしてみせるのは
あまり本意でない
狂気への興味を示してみせるのは本意でない
奴らと僕らのあいだにはなにもなく
境界さえないのだから
僕は何も言わない
けれども
どんな世にしろ必ず
怒れる若者はつばを吐くし
イカレタ若者は猥言も吐く
奴らもひそかに
かつての自己をよぎらせながら
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