水薬/たもつ
 
 
 
ゼリーでできた椅子に座る
蟻がたかる
僕はゼリーではないのに
椅子に座っているだけなのに

娘が小走りでやってくる
お薬、買って来たよ
笑いながら黄色い水薬が入った容器を見せる
ありがとう、でも本当に必要な薬はお店では買えないし
それに、僕には娘なんていないんだ、そう告げると
娘はばつが悪そうな顔をして消えていく

容器を持ったままの僕に
蟻はたかり続ける
色は絵具でつけた偽物の薬
失うことに慣れてしまうと
あることや
いることのありがたみを
知らないうちに忘れていく

蟻たちはいろいろな穴から
身体の中に入ってこようとする
まるで
僕がここにいるみたいに
 
 
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