滑るひと/恋月 ぴの
懐かしい向かい合わせの座席
小旅行ってことばの似つかわしい車内の雰囲気
(偶然だったのかな、向かいの席に座った男のひととの軽い会釈)
それでも嵌め込み式のガラス窓では吹き込む風に往生することもなく
車窓から望む田園風景は他人行儀に流れて行く
(どちらまでとか当たり障りのない挨拶を交わし)
いまどきの節電なのか車内へ差し込む日差しに踊る通過駅
モノクロームのホームには人の姿もまばらで
はてさて、これからどうなるだろう
取るものも取りあえずとか
火急の用件と言い得る程の出来事ではあるのだけど
あたふたとするばかりなのは我ながら呆れ果てるばかりで
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