ひとり生きてゆく(ということ/アラガイs
 

極め付きは米山くんの死だった 。
例によって蛇口から滴り落ちる水が八分音符を刻んでいる 。

片隅の椅子に座ったまま
ひっそりと蝋燭を灯したような薄暗い部屋のなかで
女はむき出しのトーストに針を刺していた
耳に沿いながら針先の感触を確かめるように
呟き、何度も、 何度も呟きながら繰り返す
いまにも充血で噴き出しそうな白い眼の奥に
それは赤赤とした血の色を想像していたに違いない
この季節になると窓を半分ほど開けて眠っていたのだろう
人知れず月を呼び込むために
もっともこの行為が、女にとってどれだけ勇気のいる行為だったのか
浸された長い髪の毛は一束に濡れ
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