フラット/ホロウ・シカエルボク
 
がそんなおれを見下ろしているのが見える、そう、これでなにもかもおしまいなんだ、おれはカー・ラジオをつける、ビリー・ジョエルが歌っていた、タイトルがなにかは判らない、いくつもの曲を聞き流してやがて海岸沿いに出る、海の上にはラッセンが描いたみたいな鮮烈で下品な月が浮かんでいる、おれは車を止める、エンジンを切り、車を降り、波打際に行き、銃を握り、銃口をこめかみに当てる、それは不思議と親密なものに感じる、親密なあたたかさを感じる、風は強いけれど寒いと感じることはない、さっき耳にしたビリー・ジョエルの曲を口笛で吹いてみる、高音がすこしフラットしてしまう、だけど、そんなことは、べつにはじめてというわけじゃない……鼻をすするような小さな音を立てて、波がおれの爪先に触れる、おれは引鉄にかけた指に力を……こめて…………





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