正月休みの列車で/砂木
 
寒い時 防寒着をかしてくれた人が居た
都会の職場へ戻る夜行列車の戸口で
切符の予約をとらなかった甘い自分を悔い
朝まで立つ気で汽車に揺られるさなか
途中の まだ雪の見える駅から乗り込み
戸口の向かい側に立った男性
座席も通路も満席で 身動きできずに
どこまでか 乗り合わせてしまったのだ

緑の非常口のランプが薄暗く灯る
暖房のつかない出入り口は寒くて
トンネルに入ると暗さも少し増す
前に居る男性が煙草を燃やし始めた
吸うというより 暖をとっている
マッチの火が点いては足元に落ちていく
あぶないけど寒いしなと思い見ていると急に
着ている防寒着を脱いで 私にさしだした
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