押したい背中/森の猫
 
抑えられず、ついに押してしまった。「プシュー」と音がして、その膨らんだ背中は、風船のように萎みどこかへ飛んでいってしまった。マリ子はなんだか達成感のようなほっとした気持ちでいっぱいになった。
 「大丈夫ですか、お客さん」
 緑の制服の駅員がマリ子の体を支えて、耳元で意識の確認をしていた。何事もなかったように駅に入る電車は、「プシュー」っと音をたて分刻みでやってくる。そこは乗り換えのA駅のホームだった。正気に戻ったマリ子の右指は、かちっと人差指を指していた。
戻る   Point(4)