もう、ほんとうのことしかいわなくていいだろ?/ねことら
をまとって、たとえば廃線のホームではしゃいでいた。桜、薄い微笑、切れかけの街灯、モノクロのフィルムをつなぎあわせて、空だけが青。だから今は春だ。仮定でも夢でもない。線路ははじめから途切れていた。けれど、空想しよう。何事もおきなかったのだと。僕たちが無力ではなかったと。ト音記号のように、どちらからたどればいいかわからないラブだった。だから、何度もくりかえし、誤ればいい。温い痛みのなかで。音階のずれた子守唄をハミングして。
君は何かに敗れるようにつっこんでいく。薄い胴体を持つセスナ。まっさかさまにひかりのようになって。荒れた土地で、不意に訪れる痛みに対して、ぼくらはどのような感情を持ち合わせればいい?味のないゴムをのみこんで、ぶくぶく腹を膨らませるしかない。
夜。工場群は息をひそめ、人工の蛍のように青と白の明滅を繰り返す。ここにもひかりは届いていた。かつて?いまも?窓を閉め、きみの横顔にそっと触れようとする。きみは遠く、乾いた土のように微笑んでいて、濡れた僕の指では、もう触れることもできない。
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