春に酔う/石川敬大
 

 ( 腐る ものにも 名前を与えて

 これとそれとを峻別しなければならない
 遠くの動かない山には残雪を置いて
 あそこはまだ
 冬です
 と、声高に言おう
 掌に乗せるとひややかな花びらの
 樹勢には手が添えられていて
 パチン パチン
 と、はじけ
 空に、かけのぼってゆく
 声なき声にも光の音楽は奏でられている


 なにひとつ答えられない、これが
 やまいでなくてなんだというのか
 と、ぼくは日記に書く


 滞った雲に空の鍵盤がある
 伸びあがって春を手づかみする
 と
 椿が
 かたわらで
 そっと涙をこぼした





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