聖域/salco
 
機上で
伯母は落下し脳挫傷で眠る孫の為に
満腔の震えを帯びた痩躯を折り
瞑目で何やら呟きながら手かざしを始めるのだった
高度1万2千メートルからの この上なく真摯な神通力が
ポリカーボネイドの窓を通って眼下の雲海を貫き
一体どこに伝わるというのか
善良な苦労人から金を巻き上げて来た教団が呪わしかった

脳外科に着くと
片隅の床にロマのような固まりがあり
数人の親戚の中に従兄(あに)と、毛布の中に義姉がいた
「ああ、お義母さん」力ない愁嘆が渦を巻き、すっと止んで
意識不明のまま血腫除去の手術を受けた子は
予断を許さない状態ではあるが今、頑張っていると
そんな言葉は
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