三月十二日の話をする。/草野春心
 
三月十二日の話をする。
三月十二日、東京は晴天であった。青く澄み、雲ひとつなかった。
確かその日は、原宿のあたりをブラブラとしていたのを憶えている。
日本人も外国人も、いっしょくたに暢気に笑っていた。


誰も「それ」の話をしてはいなかった。
いや、もちろん最初はしていたのだろうが、
たぶん軽い挨拶、天気の話みたいな雰囲気で、
さっさと別の楽しげな話題に移っていったのだと思う。
あくまで僕の想像にすぎないことだし、
被災地に関係者・親戚のある者はまた別の事情があるだろう。
本当には僕にはわからない。


エスカレーターの話をする。
今はどうってことなく動いているが、
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