紅い尾鰭/渡 ひろこ
上澄みの中を泳いでいた
透明ではなく薄く白濁した温い水の中を
紅い尾鰭をゆらゆら振って
指差すふくみ笑いを払い退けて
腹の下に感じる見えない水底の冷たさに慄きながら
ゆるんだ流れに身をまかせて食い潰す時間
ダラリとしなだれる紅い尾鰭
ドスン!
いきなり下からの衝撃波に突き上げられた
その瞬間凄まじい勢いで飛ばされた
目に見えない巨大な力で掻き回され
気づくと辺り一面、混沌とした濁り水になっていた
隠れ家だった元の場所へ戻ろうと必死でもがいても
上澄みの中で真珠と信じて掴んだのは
鉛の玉と変わり果て
止まり木だと思って縋ったのは
ただの流木にすぎなかった
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