冷えた四月のかげろう、スライドする真夜中の枝の景色/ホロウ・シカエルボク
女みたいに脳裏でチラチラし始めたとき、吐き出されるものにはたいがい解放と疲労が交尾する蛇のように執拗に絡み合って…鈍く光りながら暗がりへと姿を消してゆく
あれはいつのことだっただろう、まだこんな感情を飼い慣らせなかった頃、真夜中の小高い山を歩いた、意外なほどに明るい月の下で、風に煽られて振り回された木々の枝が、死んでゆく年寄りの声みたいな音を立てて揺れ擦れるのをずっと見上げていた、あれは今、あれは今のことなのだ、俺は今でもそんな景色の中で呆けて立っているのだ、安らかさなんて夢かもしれない、目覚めずに眠ることの出来る、そんな夜みたいなものかもしれない、希望も絶望も子供の頃に済ませてしまった、そのあとに来る世界の中でただ目を見開いているだけさ、キーを押し続けろ、どんな種類かは判らないけれど、それは確かに俺というかげろうのひとつの証明になる、俺の心臓の生き写し、俺の瞬きのリズム、眠気に疼き始める脳天に刹那のドリルをねじ込みながら、少なくともまた一日、俺の人生のノイズは喉の壁面に刻みつけられた…
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