壺の音 /服部 剛
 
道の遠くから 
何やら呟き続ける男が歩いて来る 
すれ違う瞬間 

「答は空(くう)だ、答は空(くう)」 

繰り返す呟きは背後に小さくなってゆき 
遠ざかる彼の背なかも小さくなってゆき 

口をぽかん、と開けて立ち止まった私が 
壺の姿で空を仰げば 
青い空の向こう側から 
不思議な風が口から体内へ吹いて来て 
私は壺の、楽器になる 

透きとほった魂は膨らみ 
発々と、漲(みなぎ)り始めた 







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