天国と地獄/salco
 
音楽の時間
 
誰もが知る有名なこの曲は
(誰も知らない作曲者の名は
   オッフェンバッハだが)
運動会の満艦飾の下で行われる徒競争や
赤いビロード張りのコンサートホールで
聞かれるべきものではない
このやかましく滑稽な旋律は
人生の中で
鼓膜の内側でこそ
がなり立て続けているのに他ならない
まるでバスター・キートンの映画みたい
マルクス兄弟よりひたむきで悲惨
チャプリンの洗練も高度なプロットも無く

これほど悲愴な音楽があろうか
棺の中で葬送行進曲を聴くまでは
超芸術的不協和音にすら至らない、
この騒々しい悲哀
強迫的奔走と安っぽい喜劇的躍動は
悲惨と混沌の人生そのもの
ガチョウの全力疾走。
反精神主義的人生の真髄を
これほど見事に体現した
苛立たしい創造物を私は知らない
―― ドナルド・ダック以外は

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