揺れるひと/恋月 ぴの
 

それでも
ここはわたしだけの世界

桜の季節には
舞い散る薄桃色に水面は染まる




もし人間に戻れるとしたなら
あのひとに逢ってみたい

今では幸せな結婚生活おくってるらしいけど

それでもわたしの好きだったひと

逞しい腕で抱きかかえるように頬ずりしてくれた

情熱的な口づけは甘くて
そして永遠の誓いでもあったはずなのに




おんなの子がひとさし指で軽く突くたび
薄桃色の爪の先から波紋は拡がり

金魚藻の茂みに身を隠しながら水面を見上げてみれば

丸く切り取られた青い空

大きく見開いた黒い瞳はゆらゆらゆれる








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