揺れるひと/恋月 ぴの
それでも
ここはわたしだけの世界
桜の季節には
舞い散る薄桃色に水面は染まる
*
もし人間に戻れるとしたなら
あのひとに逢ってみたい
今では幸せな結婚生活おくってるらしいけど
それでもわたしの好きだったひと
逞しい腕で抱きかかえるように頬ずりしてくれた
情熱的な口づけは甘くて
そして永遠の誓いでもあったはずなのに
*
おんなの子がひとさし指で軽く突くたび
薄桃色の爪の先から波紋は拡がり
金魚藻の茂みに身を隠しながら水面を見上げてみれば
丸く切り取られた青い空
大きく見開いた黒い瞳はゆらゆらゆれる
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