泥のなか/月乃助
あれはもう 海などではありません
すべてを喪失させる
漆黒の 巨きな悪魔の使い
瓦礫のやまの影に
行き場をうしない
銀鱗をわずかにみせる潮溜まり
確かにあのとき あたしは泳いでいた
いつものように潮に身をまかせ
薄明かりのなかを 漂うように
でもここでは泥にまみれ
息づくことさえくるしみながら
背びれを陽にさらす
まるで昔話のように
昨日を思い出す
幸せだった
自由だった
安らかだった
もうもどることのないかもしれない
海の日々
何がそれを生んだのですか
罰というにはあまりに 理不尽な
鰓にとりこむ泥水は、
罪の値の対価なのですか
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