硝子は大人になる前に散る/木屋 亞万
たくて仕方がない
世界には聞き手が不足しているのだ
春の桜は雨に散る
吹き抜ける長い風に散る
絶え間ない地球の引力に散る
小さな花をそっと開き
完全に咲ききって散る
ひとつ残らず花びらは
四月とすべてを共にする
粉々に砕け散ったガラスは
生命をもった雨粒の骨のようだった
桜の花びらのように舞い散っている
その近くを猫が歩く
ピンと立った両耳は
濡れたピアノの夢に耳を傾けている
枝先で世界の輝きについて
懸命に語っている小鳥の声は
未だ猫には届いていない
戻る 編 削 Point(1)