経験/いっと
 
その日から 
月は満ち欠けを繰り返し 
掃っても掃っても降り注ぐ 
火の粉のごとく 
繰り返しを強いてくるようになった 
廻ること 
廻すこと 
(それは自然 
(それは了解されている 
(それは時を育んできた 
(それは、わたしを 
百万の砂粒を包み込める 
手指を 
幼いときから夢見ている 
しかし 
そんなものは無かったのだ 
母は嘘つきだ 
父は口を閉ざしたまま 
砂粒の一かけらとなった 
光の届かない世界は 
いつも意識の外で 
ひとりでに動き出す 
わたしには触れることのできない 
故に、あらかじめ縫われていて 
それをほつす役割を 
今 
あなたに 
灯して 
灯してください 
声にならない悲鳴は 
瞬間 
モノクロの中で確かな赤色
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