それでも俺は/朧月
 
俺はもうずっと飯を食ってなくて
やっと開店した店のカウンターで
三十分以内でくうはずの飯を食ってた
現場では山のような仕事がまだ
俺を待っていた
地中に埋まった管の端っこは
壊れた家にあった

入り口には汚れたみなりの
母娘がきて親父に
どうかなんでもいいですから
この娘に食べさせてくださいと
半分折ったカラダのまま
ほそく訴えた

俺は急ぎの箸をとめずにいた
店内では大学生が
酔って奇声をあげていた
店内は満員だった

どうすりゃいいんだ
どうすりゃよかったんだ
俺の箸はとまることなく
俺の顔はあがることなく

どうすりゃいいんだ
どうすりゃよかったんだ
母娘の姿はもうない
もう ないんだ


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