天国の歌/草野春心
 
  殺人鬼が天国の歌をうたっている
  監獄の窓にむかって

 「僕は人を殺した。
  六人殺した。血の塊が僕の
  歯茎の間にはさまっている。
  僕は人を殺した。
  恋人を、友人を、知らない人を、
  自分自身を。」




  溺死体が天国の歌をうたっている
  海草に絡まりながら

 「わたしを忘れないで。
  夕闇の藍色に染まる海に
  きっとわたしを思い出して。
  岬の灯台、それはわたし。
  町に香る夕餉、それもわたし。
  出せなかった手紙もわたし。
  わたしを忘れないで……」




  生存者が天国の歌をう
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