廃校に立つ未来の子どもたちに/石川敬大
 
くらはまだ信じることができないのだ

 だれがみていなくても
 川ぞいの土手には
 もうすぐ並木の桜が咲きほこる

 この折れ曲がったピンセットは友だちが使っていた
 だれかの上履きの片方が職員室につづく廊下の端に落ちている
 実体があるようでもユーレイにしかみえない
 ひとを裏切るようにあたたかい体温をもっている輪郭を
 指先でなぞると
 子犬のようにほのかな温みがある

 瞬間という針先にかろうじて生きている
 ぼくらの危うい現在完了進行形は
 ながくのびた彗星のしっぽ
 ふりかえればすべては過去で幻想なのかもしれない

 海のガレキがひろがる
 無一文の扉の前にたたずむ
 ぼくの
 みず浸しの鼓膜に
 声にならない声が小波のように打ち寄せてきた





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