Electric Last Moment(エレクトリック・ラスト・モーメント)/木屋 亞万
 

車は子どもを生めないと
知ってはいるけど
それならば
せめて何か形見が欲しい

犬なら首輪があるけれど
そう思って
ポケットを探ると
車のキーがあった

何だか別れたばかりの
若いカップルみたいに
その鍵を握り締めて
目を閉じた

炎に揺れる空気のように
まぶたの裏も揺れている
泣いてはいないけれど
泣きそうにはなっている

これからは水と蛋白質の時代
電気と金属と油の時代は終わる
さよならの時なのだ

金属の鍵を形見にやわらかな
日々を進んでいく時なのだ
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