傘をさすひと/恋月 ぴの
 
雨が降る

黒い雨が降る




夢の島

誰が名づけたのだろう

ぐぐったところで明確な由来などでてきやしないこの島で
静かに眠り続ける一艘の船

東西冷戦の最中
高度成長の軋みを飲み込み続けた
夢が夢だった頃の悲劇

明治通りを渡り陸上競技場の向かい側
緩斜面を引き摺るように下ると

第五福竜丸を納めた展示館が立ち現れる

現実を覆い隠そうとする
そんな意図さえ感じられる緑の深さと息苦しいほどの静けさ

「触れてはいけない」

何故にと立ち止まれば誰かが肩を突いて歩みを急かす




ぴかどんの雨だから
傘ささないと頭が禿
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