仮想マシン/結城 希
 
四次元世界に開いた 暗い穴の底で
壊れかけた 電球が
弱々しく シグナルを放っている

 都会の駅ビルのフロアでは 乱雑に人々がすれ違っていく
 雑踏のなか立ち尽くす私に 気づく者はない
 毎朝、毎晩、
 島から島へ移動する人間たちは
 色をなくした世界のなかを 息苦しそうに泳いでいく

 息が掛かるほどの距離にいても
 あなたが私を見つけてくれることはない

四次元の世界では
ぽつり、ぽつりと ランダムに
明かりがあるとき灯っては 不意に消える

弱々しい 光たちは
夜ごとに一箇所に寄り集まって
一際大きな明かりを放っては
朝になると、また ちりぢりに消えていく

 色をなくした世界のなかで
 ヘッドホンをした少年は 周囲の音さえ拒絶した
 私がどんなに叫ぼうと この声が彼に届くことはない

 色をなくした世界のなかで
 ただ、少年の手の中のケータイだけが
 鮮やかな色を放っている

四次元世界に開いた 暗い穴の底で
弱々しい 光と光が出会って
世界は色を取り戻していく

戻る   Point(0)