鉄格子、外れた/中原 那由多
 
星の見えないこの街で
少し大人になった気がしていた
車両の行き交う音、サイレン、雀の囀り

は、聞こえない

喧騒の楽しみ方を忘れてしまったのは
最深部の傷が癒えたからなのか


私がアイツを殺した夜
最後の台詞は「よかったね」
鉄の匂いが好きだったのはきっと
血の通わない存在だったから
毒を吐き尽くした蛇が静かに
ドブの中へと消えていった後
「再生」という字に「スタート」とルビを振ったら

朝は突然、やってきた


思い出したのは逃避行の理由
研ぎ澄まされていたナイフ
それは錆び付き、もう使い物にはならない

思い出したのは逃避行の結末
足りていなかったのはカルシウムではなくて
校則を破る思考だった

足掻く事が無駄だということを
足掻かずして証明しようとした罰がそう

恥の少ない青春時代!


灯台もと暗し、距離感が掴めない
怖がることだけは今も変わらずに
根を張り芽を出し花を咲かせて種落とす
深呼吸すればまるで他人事のようで
モラトリアムに依存する価値もなかった

そら、月が見えているぞ


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