雨のお散歩/はだいろ
 

雨がふっていたので、
街に人がいなかった。
もういなかった。

くもが波のようにうねり、
静かに雨が。
ぼくはあのひとと歩いた。
本屋さんのおもてにも青いビニールシート。
ときどきウィンドウがあかるく、
でももうだれもいなかった。

こうして並んで歩いてみると、
背のたかさがちょうどいいと、
ガラスに映るふたりを見ておもった。
ぼくは、
ぼくがこの命のうちで、
ほんとうに好きだったひとは、
あの日のあの人だけだったような気がする。
けれど、
もうどこか遠い街の、
その人もすでに外には出られなかったのだろう。

だれも、
怒ったりはしない。
だれも
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