戻り涙/木屋 亞万
 
悲しみが止まらない夜
涙をおくる腺がどこかで
切れてしまったようで
泣こうとしても涙が出ない

悲しみだけが
ぶくぶくと腹の底から
湧いてきて
行き場をなくした涙が
身体の隙間を埋めていく

背中に群青のアザが
雨の日の窓のように
ぶつぶつと浮かんで
腰のほうへ垂れていく

自分より悲しい人がいることを知って
癒える私の悲しみではない
ともだちの悲しみを知って
いっそう絡まる悲しみが
内臓を涙で水没させていく

涙があふれ出てこない夜
身体の中は涙で満ちている
出口をなくした涙は
ジメジメと心を冷たくする

まわりの優しさが、励ましが、がんばる
[次のページ]
戻る   Point(1)