はつかねずみ/ふるる
 
  はつかねずみ


きみの美しい視線が
ぼくの背に注がれていた時
ぼくはオールをこいで
春は
緑のビーズをこぼしたみたいに
あちこちで転がり跳ね回って

きみ
きみの手の中で飼っている
はつかねずみ
白の
真綿の中で眠るんだね
オールが舟のへりに当たって
水しぶきが
あがる

ぼくはきみの手の中の
はつかねずみを見ようとして
逃げないようにそっと
かがみこみ
キスをする
きみの手と
はつかねずみに

ねずみはどんどん増えるだろう
ぼくはオールを握ってこぐ
春はまるで
琥珀色のお酒をついでまわる
カフェのやさしい主人で
その瞳はあたた
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