黒船/salco
令や布教の常套句だとしても、
何と答えたらよいのか、咄嗟にわからなくなったのだった。
オウ、ご親切をありがとう、あなた達の来訪は後で彼に話します、と
何とか返した際、大仰にも胸に手を当てていたのは、先の句の心の在り
方、というか向け方に感動していたからだった。
「どういたしまして、英語がお上手ですね」「とんでもない。とにか
く、ご親切をありがとう」「いえ本当ですよ、本当です。よい一日を。
さようなら」「さようなら」
刈り揃えた項も茹立った二人を見送りながら、自分の中に全く欠けて
いた慣用句、そのユタ州程度に広大な意味を反芻していた。
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