波/草野春心
 


  波は運んでくる。
  木片を
  手紙の入っていない壜や、
  死んだ魚を。



  波は連れてゆく。
  砂粒を
  まだ生きているものや、
  傷跡さえも。



  波は恵み、
  波は奪う。
  海のないこの街にも
  波はたえず寄せ
  返し、
  記憶だけをあとに残す。



  しずかに
  ぼくたちは生きのこり、
  耳をすます。
  波のひびきの裡には
  ひとつの言葉さえない。



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