朝の出来事/カナシミルク
 
わずかな振動が 頭を揺さぶり
日々風の色が変わる その一喜一憂よ

煙突から緑色の煙をあげる家々 遠く
汽車の音が聞こえる その海岸線で
荷車を引いていく老婆の後姿が
昨日出会いたかった 彼女のものであったのか
もはや私にはわからない

鴉が鳴き 眠気のなかに果てしなく
連なる戦車が迷いこんでくる
父は国旗を洗濯竿のてっぺんに結って叫ぶ
「ボリュームをあげろ」

喧騒のなかで まだ目覚めてもいない赤子の背中で
舵をとる男の顔を覗きこんだのは
唇を血で真っ赤にした少年であった

私にはわからない
丘を運ぶ日々のなかで あるいは
失われた退屈な日常のなかで 昨日のことが思いだせない
酒を呑みながら なだらかに落下していく
朝の出来事
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