視界を選ぶ/殿岡秀秋
 
もそこにとどまれない
現実にもどるときには
頭がぼんやりして
水に濡れたようにからだが重い

目の焦点があって
無花果の実を見つける
自分にもどるときの身震い
見たくないのは自分の姿だったかもしれない

見たくないものは
たくさんあって
目をつむってばかりいては
道もあるけない

大人になってからは
幼い日を想いかえして
自分を見るようなった
追想の中に幼いぼくが動きだす

イメージが広がると
むかし見えていなかったものが
背景から浮かんでくる
母が夜の店に行って家にいないのがさびしかった

人と人とのかかわりにからめとられ
もがいている子をほどいてあげると
空想から覚めて
幼いぼくが微笑む





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