静かなまぼろし/ホロウ・シカエルボク
 
かな熱に様子を変えるまで


風が強い日には
さらわれたもののことを
いちいち
覚えてはいられない
薄いコートの襟を
きつく合わせることに必死になって


頭の中でバタフライしてた
アルペジオはいつしかなくなって
ギンズバーグが鼻を噛むような
音が
右脳の物陰からずっと聞こえていた
緑色のアザラシが天井で芸をし
コミックタッチの象が壁の中で笑い転げてる
音楽に合わせて
トゥシューズの軌跡を辿って
それが
つまり
「吠える」と
いうことなのだ


多足虫の足音はホンキー・トンク・マジックだ
天井裏で自滅的にスウィンギング・ロンドンしてる
それがロンドンでなければ素晴らしいのに
そいつが生まれたところの名前であったなら
よっぽど


ダンサーはダンスを忘れて
音楽を止めて
恥ずかしげに微笑みながら
こちらに向かって歩いてくる
たくさんの汗が彼女の
髪や頬を伝って
まるで美しいプラチナに
いま塗り変えているところみたいだ


フィルムは繰り返される
床には
点々と…



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