お・ふ・ろ/天野茂典
 



名刺を裏返すと虫がいるように
人の裏側にも虫はいる*


母は書道の師範だが
いまはグレゴール・ザムザのように
変身している
虫は口が効けない
母はいも虫のように這ってくるのだ
母は歌舞伎座に行きたかったがあまりにも遠いので止めた
母の名刺はみたことはないが
たとえあったとしても紙魚にやられているこだろう


名刺のいらない人生
母は50代に入ってやもめになった
社交ダンスにこっていた
書道熟に通っていた
金は全部ぼくがはらった
蓑虫のように
母は名刺の裏に紙魚をつくった
名刺の裏にぶらさがっていたのだ


ぼくはそんな母が嫌いだったが
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