世界が始まらないことを願って/木屋 亞万
 
なぜ生まれてきたのか
そう問われると
とても悪いことをしている気分になる
なぜ盗んでしまったのかと聞かれているような
なぜ殺したのかを尋ねられたような
質問の正しさが怖い

なぜか
なぜなのか
理由などいくらでも用意できる
わざわざ拵えた理由で
しっくり嵌るようなものでもないというのに

マスターキーは鍵穴を傷つける
マスターの権力と強引さで
壊れない程度にわずかに痛めつけられていく

なぜ扉が必要だったのか誰も問わない
なぜ壁があるのか
扉を蹴り倒すのでもなければ
壁をぶち破るのでもなく
鍵穴をマスターキーで痛めつけて
開ける
鍵穴が傷ついて少し
[次のページ]
戻る   Point(3)